2026.10.24 四季養生
四季養生Vol.22 プロフェッショナル養生訓
認知行動療法の達人
臨床心理士 中島 美鈴 先生
テーマ「これからの人生を楽しむための認知行動療法」

私は、小学生の頃から交換日記が大好きで、友達の悩みに答えたり、心のことを言葉にしたりしていました。
自分自身についてもよく悩んでいましたし、人の悩みを一緒に考えて解決していくことも好きだったので、「これが仕事にならないかな」と漠然と思っていたところ、高校生になって自分の進路を考え、よくよく調べていくうち、「臨床心理士」という資格が
あることを知り、「もう、これしかない」と決めて、そのまま臨床心理士になりました。
何をするにもおっくう…やらなきゃが〝先延ばし〞に
シニア世代の方から寄せられる不安やお悩みの相談で、最近一番多いのは何事についても「おっくうになる」ということです。
「何をするにもやる気が出ない」方が多く、たとえば終活についても、「やらなきゃ」「しなきゃ」と思いながら、つい先延ばししてしまうそうです。10年ほど前は、「将来、必要なお金が足りるかな」といった経済的な不安や、健康に関するお悩みが多かったのですが、現在は「めんどくさいな」「やらなきゃいけないけど、できない」といった、「先延ばし」に関するお悩みが増えています。
不安や悩みを乗り越えるヒント
やる気を出したいけれど、なかなか気力がわかないという方に、お伝えしているのが、認知行動療法の「スモールステップ」という考え方です。
先ほどの例でいえば、シニア世代になったけれど「終活」という大きな荷物のどこから手をつければいいのかわからない。そん
なときは、その大きな荷物を小さな塊(かたまり)にまず分けて、階段を一段ずつつくっていけば、一気に大きな荷物に登れなくても、小さな階段ならばトントントンと登れるから登る意欲が湧きます。
私の仕事は、大きな荷物を小さな塊に分け、登りやすくするお手伝いをしているような感覚です。
膨大な量のパスワードを、いきなりすべて書き出すのは、なかなか難しい。でも、優先順位をつけ、たとえばスマホのロック解除コードだけはこのノートにまとめておく。そんなふうに、一つずつなら、今からでもすぐにやれますよね。
認知行動療法は、ざっくりいうと、自分の物事の捉え方や行動パターンを別の考え方でもう一度見直して、今よりも少し心軽やかに生きていくためのカウンセリングの一種なんです。
「カウンセリング」というと、少し身構えてしまうかもしれませんが、この考え方をしていけば、物事を柔軟に捉えられるようになったり、ストレスに対処しやすくなったりします。シニア世代の方にとっても、今抱えている不安やお悩みを乗り越えていくためのヒントになる考え方だと思います。
人生の振り返りが、未来を変える
終活を始める際、お部屋を片付ける前に、一度、ちょっと立ち止まって、自分を振り返る時間を持つことをおすすめします。
私の100歳で亡くなった祖母は終活の手はじめに、60歳ぐらいでそれまでの自分史をまとめました。祖母なりに、自分で「本当
の自分って何か」を知るために自分の人生を整理したんですね。自分の年表をつくって、「何年に、どこで生まれた」とか、「この年に何をした」とか写真付きで。これはとても面白いなと思いました。
今までやってきたことを一度ちゃんと振り返ってみる。そういうことを、シニア世代の方はそろそろ終活を始めるという前にしてみるべきだと思います。自分は人生の中で「こんなことをしてきたんだな」と見直せますし、「まだこれをやれていないな」と気
づきもある。すると、また今からやりたいことが出てきたりします。
振り返ってみると、人生の中では、結構、同じ行動だったり、思考パターンが繰り返されているので自分の「喜ぶツボ」がブラッシュアップされます。

「あ、私っていつもこんな人と一緒にいるとき喜んでいたな」とか、「こんな成果を上げたときに喜んでたんだ」とか、「自由にこんなことしてたときに喜ぶタイプなんだ」とか。そういうことがわかりますから、今後の人生をご機嫌に過ごすための大切なキー
ワードがきっと見つかると思います。
人生ランキングで見つかる「喜ぶツボ」
小学生の頃までさかのぼってみる、きっと何か見えてくる。その頃に進路も気にせず、夢中になっていたことをもう一度やってみる。これって今の自分にも最高に楽しいはずです。
こんな理由から年表づくりは、ぜひやってみてください。重く考えず思い出せるところからゆっくりとまずは、人生の楽しかったビッグニュース、良かったニュースだけで充分です。自分の中で「良かった楽しかったランキング」を10位まで、あるいは5位まで、たとえば「1位は結婚できたこと」とかね。そうすると、自分が何に喜びを感じていたのか、「喜ぶツボ」が必ずわかってきます。ランキング形式なら、時系列で整理するよりもお手軽ですから。ぜひ、そんな形で振り返ってみてください。
自分の「好き」が浮き彫りになると
自分年表をつくるときの注意点は、多くの方は頭の中だけで考えようとします。でも、手がかりや資料があったほうが、つくりやすいので、まずは「大型書店に行ってください」とお伝えしています。公立の図書館に行くより、蔦屋書店のような、雰囲気のある本屋さんに行くと、色んな楽しい提案があるし、誰にでも自然と足が止まるコーナーがあります。
人それぞれ、釣りだったり、旅行だったり、どこかしら「これ、好きだな」と感じるコーナーがあると思うんです。一方で、「ここには全然興味がないな」というコーナーもある。そうやって本屋さんを歩きながら、自分の好みを少しずつ浮き彫りにしていくといいと思います。
これからの楽しみは、過去にある
「これも自分」、でいい
どなたも年齢を重ねると、自分を変えることは、なかなか難しくなります。私の感覚を申し上げれば、40歳を超える頃には、それぞれの「マイライフ」が確立されてきて、誰かと付き合ったり、一緒に暮らしたりしても、ちょっとした生活習慣でさえ気になってしまいます。
もちろん、「変えよう」と思うこと、変わるためのトライをすることは大切です。でも一方で、「ああ、自分って、物事をいつも白黒ではっきり考えちゃうよね。これも自分らしさかな」と受け入れて、「まあ、それもいいじゃない」と思えることも大切です。
何か問題が起こったら「絶対克服しなきゃ」と考えるより、自分の特徴と相談しながら上手に問題と付き合っていく。そうした柔軟な考え方は、本来、日本人が得意とする思考です。
「また私の白黒思考が出ちゃったよ」「おっちょこちょいが出ちゃって、忘れっぽいよね(笑)」そんなふうに、自分の考え方のクセをちょっと笑って受け入れられるようになる。無理に変えようとするのではなく、「これも自分」と認めながら、上手に付き合っていく。そういう考え方は、シニア世代に必要だし、合っているのではないかなと思います。
株式会社 TimeDesign Lab
代表取締役・臨床心理士
中島 美鈴 様

九州大学で研究・臨床に携わるほか、オンライン相談室を主宰。認知行動療法を専門とし、不安や先延ばし、やる気が出ないときなど、日々の暮らしの中で感じる心の困りごとへの対処法を研究・実践している。著書は『1日3分やめるノート』『マンガで成功 時間管理大全』など多数。
NHK「あさイチ」をはじめ、テレビ・新聞・雑誌などでも、毎日を心地よく過ごすための心理学をわかりやすく伝えている。
